綾美姫 誕生のはじまり──新品種開発への夢を、もう一度

新規就農後の苦しい日々の中で、
私の心の奥にずっと残り続けていた想いがありました。

それは、
会社時代に断念せざるを得なかった「新品種開発への夢」です。

育種部門で働いていた頃、
「自分の手で、新しい価値を持つ苺を生み出したい」
そんな強い想いを抱いていました。

しかし、組織の中では自由に挑戦できる環境ばかりではなく、
やがて私が関わっていた新品種開発プロジェクトは終了しました。

積み上げてきたデータも、時間も、想いも、
そこで一度、区切りを迎えたのです。

その夢を胸の奥にしまい込んだまま、
時間だけが静かに過ぎていきました。

けれど――
農家として独立した今なら、
もう一度あの夢に挑戦できる。

「今度こそ、自分の責任で、自分の苺を作る。」

そう覚悟を決めていた時、
私は、ある苺と出会います。

数ある系統の中から、
いつものように実っていた果実を手に取り、何気なく口にしました。

その瞬間、はっきりと感じました。

「これは、違う。」

甘さだけではない、香り、酸味、余韻。
口の中に広がる“奥行き”が、これまでの苺とはまったく別物だったのです。

そして、自然とこんな言葉が頭に浮かびました。

「品種になりえる味だ。」

研究現場で数多くの苺を見てきたからこそ、
“ただ美味しい”だけではない、
商品として成立する可能性、育て上げる価値があるかどうか――
その感覚が直感的に伝わってきました。

「この苺なら、行ける。」
「この品種で、新しい価値を作れる。」

環境次第で、まだ伸びる。
育て方次第で、もっと上に行ける。

そう確信した瞬間でした。

会社時代に一度は諦めた夢を、
今度はこの畑で、自分の手で叶える。

その決意が、
後に「綾美姫」と呼ばれる苺の物語の、
本当の始まりになります。

しかし──
ここからが、本当の戦いでした。

次回は、
なぜこの苺を「綾美姫」と名付けたのか。
その名前に込めた、私の覚悟と願いをお伝えします。


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